「バンクシー展 天才か反逆者か」について
原宿で開催中の「バンクシー展 天才か反逆者か」についての感想。
最初から最後まで違和感があったのですが、その原因はひとつひとつメッセージ性が強いためかもしれません。
例えばモネとか印象派の画家は見えた風景をキャンバスに写しとろうとしましたが、そこに問題提起はないと思われ、見る側としては綺麗な風景だな、と心洗われるわけです。
ところがバンクシーは時事に関わる何かしらを訴えているのでどうしても考えざるをえず、かわいいネズミだね!では終わらない…。
バンクシーは天才とか反逆者という言葉よりも、なんとなく革命家という表現のほうが合うような気がしました。
個人的に印象に残った絵をいくつか。
■グリン・リーパー
イギリスらしい時計の上にスマイリーの顔を持つ死神が可愛い怖い感じ、ふとブギーポップを思い出す。
■セール・エンズ
本来キリストが磔になっているであろうところに「SALE ENDS TODAY」とあり、周りの人々が嘆いている構図、皮肉が効いている。
ちなみに会場の外のチンパンジーは、この角度だと廊下に立たされてしょんぼりしてるようにも見えるような。
まるで“現在の世界“という本の挿絵を見た気分になる展覧会でした。
2022年2月読書メモ
今月印象に残った本を書き留めておきます。
■スコット・バークン
「デザインはどのように世界を作るのか」
デザインというとお花やインテリアなどが思い浮かびやすいですが、身の回りにあるものはすべてデザインされており、自分も関わることができるという認識ができた一冊。
特に使いやすいドアのデザインについて読んだ矢先に記憶に残る経験を。
とあるビルのお手洗いに行ったところ、把手がついていたので引くのかと思いきや開かず。
ではスライドかと思っても違う、結局押すのが正解だった時には、これがユーザーを考えていないデザインか、と納得したものです。
せめてPUSHくらい書いておいてほしい…。
■米澤穂信 「黒牢城」
荒木村重の籠城中に城内で起きた不可解な事件の数々を、土牢に囚われた黒田官兵衛が謎解きするというもの。
籠城の最初は家来衆も意気軒昂だったのが、毛利の援軍も期待できずという状況の中、だんだん雰囲気が荒み城主への気持ちも離れていく様子が事件そのものよりも恐ろしい。
というか事件が家来衆の感情を浮き彫りにしていくように思われ、ミステリーと時代小説の不思議な融合を感じました。
■ジョバンニ・ボッカッチョ 平川祐弘訳
「デカメロン」
ペストが蔓延している時期に、フィレンツェの男女10人が郊外に逃れて面白い話を十日の間、順番に語るというもの。
きわどいお話も多いのですが、よくもまあこんなに書いたものだと感心。
時代や国が違っても、人間そのものはそんなに変わらないのだなあという気がします。
一気に、というより隙間時間に少しずつ読むくらいがちょうどいいのかもしれません。
なぜ訳者も明記したかというと、訳者の自己主張がなかなか激しく面白いから。
注記で訳者の意見があちこちで見られるだけでなく、上中下ある小説の後ろには解説まで…情熱が伝わってきました。
訳者には原語の正確な理解だけでなく、元の良さを損なわない文才とか配慮が必要なのだな、と感じた次第。
今後面白い翻訳小説を読んだ際にはこれまでよりありがたみを感じられそうです。
「ミロ展 日本を夢みて」について
渋谷で開催中の「ミロ展 日本を夢みて」についての感想。
ミロをこんなにまとめて見たことがなかったので目を開かされた思い。
風景画は初めて見ましたが、なんとなく描きかたや色の塗り方はセザンヌやゴッホ、色合いはムンクを少し思い出させました。
その他のミロの絵と、昔の中国や日本の書との類似について指摘されていましたが、比べてみると本当に似ていてびっくり。
また、どの絵もどことなく暖かさとユーモアがあるような…黒でさえも柔らかい感じがするのは、日本の書画の影響なのでしょうか。
印象に残った絵をいくつか。
■《絵画詩(おお!あの人やっちゃったのね)》
文字と色と線の具合が音楽的でおしゃれなのですが、おならからこの絵が生まれたとか…経緯を知ってしまうと複雑。
■《絵画[カタツムリ、女、花、星]》
題名見てから絵を見てもどれがどれやらいまいちよく分からないのですが、文字が絵と一体化してとても素敵。字がなかったらきっと物足りないことでしょう。
■《マキモノ》
絵も色もとにかくかわいい。不思議なキャラクターもいて、なんだか宇宙人からのおたよりのようです。
ちなみにミロというと画家以外では飲みものを思い出しますが、今回の協賛はなんとネスレ。洒落が効いていて面白い。
「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」について
国立新美術館で開催中、「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」の感想。
さすがはメトロポリタン、有名画家が目白押し。
500年間の絵ともなると雰囲気もジャンルもそれぞれで、最初から最後までだれることなく見ることができました。
印象に残った絵をいくつか。
■エル・グレコ《羊飼いの礼拝》
遠くからパッと見て、絵が光ってる!と思ったくらいキリストから放たれている光の表現が見事。
■バルトロメ・エステバン・ムリーリョ《聖母子》
暗めの落ち着いた色合いで、いつまでも見ていられる一枚。
聖母子の絵はマリアもキリストも近づきがたい顔のものもありますが、これはマリアの静かな表情といい、キリストのあどけない顔といい穏やか。
見る人を和やかな気持ちにさせてくれます。
■フランソワ・ブーシェ《ヴィーナスの化粧》
ヴィーナスが綺麗というよりかわいらしい。
面白かったのは、ヴィーナスの髪を掴んでいるキューピッドがやけに眼光鋭く髪型がイケメンなこと。体型と背中の羽が合ってないような…。
他にもフェルメールにルノワール、モネ…と諸々見どころ満載でフルコースでも食べたような豊かな気分、ご馳走様でした。
「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」について
東京都美術館で開催中の「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」の感想を。
タイトルのフェルメールと、が少々曲者です。
実際には一枚だけなので「17世紀オランダ絵画展(フェルメール含む)」が正しいような気も…。
とはいえ今回修復が完了した《窓辺で手紙を読む女》は色のくすみがとれて鮮やか。
塗り潰されていたキューピッドも復元され、趣きの変わった一枚に生まれ変わっていました。
修復には4年かかったそうですが、特に上塗り部分を削るプレッシャーは想像を絶します。
見事修復を成し遂げた方々に敬意と感謝を捧げたいところです。
その他で良かったのは、ニコラース・ベルヘム《滝のそばの牧人たちと家畜》。
画家の中では何かストーリーがあったのでしょうか。
物語の一場面のようで、本の挿絵として使われてもよく似合いそうでした。
開催が延期されたので心配しましたが、無事に見ることができて何より。
中村佳穂 うたのげんざいち2022 in 東京国際フォーラムについて
中村佳穂 うたのげんざいち2022 in 東京国際フォーラム ホールAに行ってきた感想。
一昨年だったかコロナの影響でmol-74のライブが延期→中止になるという憂き目に遭い、現在もまた感染者増えているので懸念していましたが無事開催されてなにより。
昨年末の無料/有料ライブ配信がバンドだったので今回もかと思っていたらピアノ弾き語りでした。
実際に生で聴くと映像以上に全身が言葉と音とリズムでできているかのような跳ねる印象です。
ピアノを聴きながら上原ひろみと合いそうなと思っていたところ、ゲストで登場してびっくり。
お二人のピアノの競演は猫科の大型獣が戯れあってるんだけど外から見ると肉弾戦にしか見えない、という感じで凄まじかった…特に速弾きのカタルシスよ…。
上原ひろみの伴奏での歌はシャンソンっぽいというかなんだかヨーロッパのカフェにでもいるような気分になりました。
ピアノを聴き比べると違いがあって面白い、中村佳穂が直線的なら上原ひろみは曲線的というか…語彙が乏しいのでうまく説明できないですが。
楽器がピアノだけであるゆえに歌の良さや力強さも際立つような迫力あるライブ、たっぷりの素敵な歌と音をご馳走様でした。